東京高等裁判所 平成9年(ネ)1144号 判決 1998年6月30日
控訴人
石川直正
右訴訟代理人弁護士
吉ヶ江治道
同
小山達也
被控訴人
今市一雄
被控訴人
和田房枝
被控訴人
福菅節子
被控訴人
佐藤誠子
被控訴人
福永克子
被控訴人
大島照子
右被控訴人ら訴訟代理人弁護士
岡田尚
同
小川直人
同
杉本朗
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人らは、控訴人に対し、各自一二〇〇万円及びこれに対する平成七年二月三日から(被控訴人福永克子については同月九日から)支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被控訴人らは、控訴人に対し、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞及び日本経済新聞の各神奈川県地方版に、原判決別紙一記載の謝罪広告を同記載の条件で一回掲載せよ。
四 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。
五 仮執行の宣言
第二事案の概要
本件の事案の概要、当事者間に争いのない事実及び証拠によって明らかに認められる事実並びに争点は、次に付加するほかは、原判決摘示(原判決二枚目裏一行目(本誌本号<以下同じ>59頁3段8行目)から一二枚目表一〇行目(62頁3段11行目)まで)のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決二枚目裏四行目(59頁3段13行目)の「相模原南病院労働組合」の次に「執行委員会、相模原南病院労働組合」を、同五行目(59頁3段15行目)の「支援する会」の次に「など」を加える。
(控訴人の当審における付加的主張)
本件は、名誉棄損を理由とする損害賠償請求訴訟であるから、まず最初に問題とされなければならないのは、原判決別紙二ないし六<略>のビラ(原判決にいう「本件ビラ」)の内容の真実性である。名誉棄損による損害賠償請求の成否は、文書の内容の真実性を検証した後に、内容が真実だとしてもそのような内容の文書を不特定多数の者に配付することが許されるかどうかを検討すべきである。文書の内容が虚偽であった場合には、そのような虚偽の内容の文書の配付を正当化すべき特段の事由があるかどうかを検討しなければならない。
ところが、本件ビラには多数の虚偽の事実が含まれているし、このような虚偽の内容を他に伝播することを正当化する特段の事由はない。労使紛争の最中にあるからといって、虚偽の事実を伝播させることが正当化されるものではない。
控訴人は、相模原南病院のオーナーであるため、病院内での評価こそが控訴人にとって決定的に重要な意味を持つもので、それが傷付けられた場合には、病院を経営していくことができなくなってしまう程の打撃を被るのである。しかも、控訴人は政治家を志す者であって、自らの評価を貶められることは致命的なのである。
第三争点に対する判断
一 当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がないと判断するものであり、その理由は、次に付加訂正するほかは、原判決説示(原判決一二枚目裏一行目(62頁3段14行目)から一五枚目裏九行目(63頁3段20行目)まで)のとおりであるから、これを引用する。
二 原判決一二枚目裏三行目(62頁3段16行目)の「被告今市本人」の次に「、当審における控訴人本人」を加え、一五枚目表九行目(63頁2段31行目)の「主観的な見解が」から一六(ママ)枚目表(ママ)二行目(63頁3段7行目)の「解される。)」までを「主観的な見解ないし、労働組合の立場から使用者側の言動をあげつらうような事実の記載があるにせよ、そのような部分については、労働紛争の渦中にある組合側が、自己の立場の正当性を訴えてその支持を求めるためにするものとして、これを必ずしも額面どおりではなく、多分に割り引いて認識し理解するような事柄と解されるものであって、本件ビラの配付を受けてこれを読む者の立場に立ってそれぞれを通読してみると、本件記事イないしトは、いずれも、使用者側の実質的代表者の立場にある控訴人の社会的評価を低下させるような印象を与えるものとまではいい難いものである」に改め、一五枚目裏九行目末尾(63頁3段20行目)に行を改め「なお、控訴人は、名誉棄損による損害賠償請求の成否は、文書の内容の真実性を検証した後に、内容が真実だとしてもそのような内容の文書を不特定多数の者に配付することが許されるかどうかを検討すべきであり、文書の内容が虚偽であった場合には、そのような虚偽の内容の文書の配付を正当化すべき特段の事由があるかどうかを検討しなければならないと主張するけれども、本件ビラの内容のうち、控訴人が控訴人の名誉を棄損すると主張する記事(本件記事イないしト)は、いずれも控訴人の社会的評価を低下させるものとは認められないのであるから、その内容の真実性の如何に関わりなく、本件ビラの作成ないし配付が、控訴人に対する名誉棄損としての不法行為には当たらないものと解すべきである。したがって、控訴人の右主張は採用することができない。」を加える。
三 以上によれば、控訴人の被控訴人らに対する本件請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥山興悦 裁判官 都築弘 裁判官 佐藤陽一)